電子密度モデルで電圧学習

 「電気と遊ぼう」のあとは,摩擦電気から電圧学習へと入りました.

 電圧については,たとえ話で教えることがほとんどで,わかりやすく教える方法を知りませんでした.今回初めて,実験を通して電圧について授業をしました.
 この方法は,北海道教育大学の佐野英昭さんと徳永好治さんが理科教育学会の『研究紀要』(97年No.1)で発表したものです.それを10月に見て,資料を送ってもらったり,パソコン通信で毎日のようにやりとりして教えてもらったものです.
 正直言って,器具を作るのがたいへんでしたが,生徒にも手伝ってもらい,何とか授業を行うことができました.

 教材作りと授業で用いたワークシートを紹介します.なお,ワークシートは佐野さんの授業書にあった実験を【問題】という形にするなど,小森が一部改変しています.しかし,実験の内容,説明などはほとんど全部佐野さんのものであり,オリジナリティは佐野さんにあるものです.

 この方法につきまして,ご意見をいただけますと幸いです.できましたら,ニフティの【理科の部屋】にて議論できると幸いです.メールの場合には,こちらにお願いします.


■教材作り




■ワークシート 佐野さんから送っていただいた授業書の図は,授業で使ったワークシートには利用させていただきましたが,ここには載せておりません.

電圧って何だろう

 1.5Vの乾電池を触っても感電しないけど,コンセントにきている100Vの電気を触ると感電しますね.電圧が違うというのは,何がどう違うのでしょう?

 摩擦電気でネオン管をつけたとき,ビリって感電した人もいますね.どうやら摩擦電気もけっこう電圧があるようです.摩擦電気の実験から,電圧に迫っていきましょう.

【問題1】
 塩ビパイプをトイレットペーパーでこすって,摩擦電気をおこします.図のようにつるした発泡スチロールの小さな玉(小球とよぶことにします)に,−の電気をもった塩ビパイプをくっつけると,小球はどうなるでしょうか?
 小球には,電気を通しやすいように墨汁が塗ってあります.
●予 想  ア くっつく      イ 離れる      ウ そのほか      【図省略,以下同様】
●結 果

【問題2】
 アクリルパイプをトイレットペーパーでこすって,摩擦電気をおこします.アクリルパイプの電気は,+の電気です.+の電気をもったアクリルパイプを小球にくっつけると,小球はどうなるでしょうか?
●予 想  ア くっつく      イ 離れる      ウ そのほか
●結 果

【問題3】
 塩ビパイプをトイレットペーパーでこすって,摩擦電気をおこします.図のようにつるした2つの小球に,−の電気をもった塩ビパイプをくっつけて電気をわたすと,2つの小球はどうなるでしょうか?
●予 想  ア くっつく      イ 離れる      ウ そのほか
●結 果

 2つの小球に,塩ビパイプをくっつけると,−の電気が小球に移ります.−の電気同士は反発するため,小球は離れます.

【問題4】
 アクリルパイプで,2つの小球に+の電気をわたすとどうなるでしょう?
●予 想  ア くっつく      イ 離れる      ウ そのほか
●結 果
  

【問題5】
 塩ビパイプとアクリルパイプを,それぞれティッシュペーパーでこすって,摩擦電気をおこします. 図のようにつるした2つの小球の一方に−の電気をもった塩ビパイプをくっつけて電気をわたします. もう一方に,+の電気をもったアクリルパイプをくっつけて電気をわたします.
 2つの小球を近づけると,どうなるでしょう.
●予 想  ア くっつく      イ 離れる      ウ そのほか
●結 果

 2つの小球の一方は−の電気を,もう一方は+の電気をもっています.2つの小球を近づけると,小球は互いに引き合います.
 違う種類の電気は引き合います.つまり,
+と−の電気は引き合います

【問題6】
 塩ビパイプをティッシュペーパーでこすって,摩擦電気をおこします.塩ビパイプの電気は,−の電気です. −の電気をもった塩ビパイプを次のようなものに近づけるとどうなるでしょう.
●予 想  ア チョークの粉
       イ 髪の毛
       ウ 小さく切った紙
       エ 小さく切ったアルミフォイル
●結 果

【問題7】
 アクリルパイプをティッシュペーパーでこすって,摩擦電気をおこします.アクリルパイプの電気は,+の電気です.+の電気をもったアクリルパイプを次のようなものに近づけるとどうなるでしょう.
●予 想  ア チョークの粉
      イ 髪の毛
      ウ 小さく切った紙
      エ 小さく切ったアルミフォイル
●結 果

 【問題6】と【問題7】の実験でわかるように,いろいろな物質が+・−どちらの電気にも引きつけられます.
 これは,鉄がN・Sどちらの磁石にも引きつけられるのと似ていますね.磁石を近づけると,鉄が一時的に磁石になって吸い寄せられます.それと同じように,電気を近づけると,近づけた電気と反対の電気が出てくるのです.(詳しくは,高校の物理で勉強します.お楽しみに!)


【読み物】 はく検電器はどうして開く?
 はく検電器のお皿に,−の電気をもった塩ビパイプを近づけてみましょう.はくはどうなるでしょうか?
 はく検電器に,電気をもった物体を近づけると,下の図のように近づいた電気と反対の種類の電気がお皿の部分に表れ,はくの部分には近づけた電気と同じ種類の電気が表れるのです.

【読み物】 +,−の電気の粒
 電気は,実は+・−どちらかの電気の粒の集まりです.この粒は新しく生まれたり,消えたりすることはありません.
 物質はすべて原子からできています.原子は,さらに電子と陽子からできています.−の電気の粒は電子,+の電気の粒は陽子です.
 質 量   電子 1/1000 0000 0000 0000 0000 0000 0000 g
        陽子   1/5 0000 0000 0000 0000 0000 0000 g
 陽子は電子の2000倍も重たいので,簡単に動くことができません.反対に,電子はとても小さく動きやすいのです.
電気はものからものへと移りますが,これは電子が移動するのです
 電荷量  電子 −1.6/100 0000 0000 0000 0000 C
        陽子 +1.6/100 0000 0000 0000 0000 C
 電荷量は,物体がどれだけ電気をもっているかを表す量のことです.単位はC(クーロン)です.高校で習います.電子と陽子の電荷量は,大きさが同じで符号が反対です.ふつう原子は,電子の電荷量と陽子の電荷量がつり合っていて,+・−どちらの電気ももっていないことになります.

 2つの物質を摩擦すると電子が移動し,一方の物質は電子がふえて−の,もう一方の物質は電子が減って+の電気をもつことになるのです.物体の電荷量は電子の数がどれだけ多いか少ないかできまるのです.摩擦をすることで,電気が新しく生まれることはないのです.

 電子はあまりにも小さいため,正確な大きさは測定できませんが,およそ1/1000 0000 0000cmぐらいの大きさと考えられています.電子を直径0.1mmの大きさに拡大すると,今までの実験で用いた直径6mmの小球の大きさは,地球ぐらいの大きさになってしまいます.

 直径6mmの小球が−の電気をもつとき,表面にはおよそ20億個の電子が散らばっています.


【問題8】
 図のように,大小2枚の金属板を導線でつなぎ,−の電気をもった塩ビパイプをくっつけて電気をわたします.大きい金属板にはたくさんの電気の粒があります.小さい金属板の電気の粒の数は少ないです.
 2枚の金属板に,−の電気をもった小球を近づけると,小球は反発します.
●予 想  ア 大きい金属板の方が,小球の反発が大きい.
       イ 小さい金属板の方が,小球の反発が大きい.
       ウ どちらも同じだけ反発する.
●結 果
  


    横から見たようす(左:小さな銅板のときの反発,右:大きな銅板のときの反発)
  

 

【問題9】

 小さい金属板に−の電気をもった塩ビパイプをくっつけて電気をわたすと,−の電気をもった小球は反発します.図のように,電気をもっていない同じ大きさの金属板をくっつけて,面積を2倍にしたら,小球の反発はどうなるでしょうか?

●予 想  ア 面積を2倍にすると小球の反発は大きくなる.
       イ 面積を2倍にすると小球の反発は小さくなる.
       ウ 面積を2倍にしても小球の反発は同じ.
●結 果
 

  左:銅板1枚のときの反発 右:もう1枚をつけて面積を2倍にしたときの反発
 

【読み物】 電気の粒のつまり具合
 【問題8】の大きな金属板と小さな金属板で球の反発が同じでした.大きな金属板の電気の粒(電子)は多く,小さな金属板の電気の粒(電子)は少ないです.けれども,2枚の金属板では,図のように
電気のつまり具合が同じなのです.この電気の粒のつまり具合を電荷密度といいます.

 【問題9】の実験では,電気の粒の数が同じでも,面積を2倍にすると小球の反発が小さくなりました.これは面積が2倍になったため,電荷密度が小さくなったのです.
 電荷密度(電子密度)が異なると,電気の力の大きさが違います.

【やってみよう】
 糸につるした20個の小球に−の電気をわたすと,お互いに反発して広がります.

 下の糸を引くと,球の間隔が縮まります.引く力を緩めると,球は反発して広がります.これはまるで,球と球の間にバネがあって,バネが縮められたりのびたりするようです.
 バネを縮めると,バネのエネルギーは大きくなります.同じように間隔を縮められた(密度が大きくなった)球のエネルギーも大きくなります.

 電子はすべて−の電気をもっているので,球のように互いに反発して広がります.電子の密度を大きくすると,電子のエネルギーが大きくなります. これからは,この小球を電子と考えて実験していきましょう.

【問題10】
 図のように糸につるした小球20個に,−の電気をわたして反発させます.この下にはく検電器を置くと,はくが開きます. 次に,小球の間隔を縮める(密度を大きくする)と,はくの開きはどうなるでしょう.
●予 想 ア はくの開きは大きくなる.  イ はくの開きは小さくなる.  ウ 変わらない.
●結 果……

【問題11】
 図のように糸につるした小球20個に,−の電気をわたして反発させます.この中心にはアルミ箔がおいてあり,少し上に押し上げられます.
 小球の間隔を縮める(密度を大きくする)と,アルミ箔の位置はどうなるでしょう.
●予 想  ア もっと上がる.  イ 下がる.  ウ 変わらない.
●結 果……


  オリジナルのように,アルミ片を中央に浮かして上下に動くようにすることができず,写真のように糸で吊したアルミ片を横から近づけて反発力を比べました.
 

  左:電子密度が小さいときは反発小. 右:電子密度が大きいときは反発大.
 

 しかし,この方法では,電荷の中心からの位置が2つの場合で違うので正確には正しい実験ではないとの指摘を【理科の部屋】オフ(97.12.13)でいただきました.

【読み物】 電圧とは
 電子の密度を大きくすると,エネルギーが大きくなります.
このエネルギーが電圧です.電子の密度が大きいと,電圧も大きくなります.

 球の密度を大きくすると,アルミ箔がさらに上に押し上げられました.これは電気の力が大きくなったためです.小球のエネルギーを大きくすると電気の力が大きくなるように,電子のエネルギー(電圧)を大きくすると,電気の力が強くなります.

 電子の密度が大きいと,電圧が大きくなり,電気の力も強くなります.反対に電子の密度が小さいと,電圧が小さく,電気の力も弱くなるのです.
   
電子の密度が大きい → 電圧が大きい → 電気の力が強い
   電子の密度が小さい → 電圧が小さい → 電気の力が弱い

【問題12】
 2枚の金属板に9V電池をつないで,金属板の間に墨汁を塗った小球をつるします.金属板の間隔を狭めると,球は動くでしょうか?

【問題13】
 9V電池を8個直列につないで,金属板の間に墨汁を塗った小球をつるします.金属板の間隔を狭めると,球は動くでしょうか?

【問題14】
 2枚の金属板に,300Vの装置(カメラのフラッシュの装置)をつないで,金属板の間に墨汁を塗った小球をつるします.金属板の間隔を狭めると,球は動くでしょうか?

【読み物】 電池のしくみ
 摩擦電気も電池の電気も,正体は同じ電子です.電池の+極では,電子が少なくなって+の電気をもっています.−極では,電子が多くなって,−の電気をもっています.
 電池は,中にたくさんの電子をたくわえているのではありません.電池は原子から電子を引き離して,電子を−極に集めているのです.
 乾電池1個では,たくさんの電子を集めたり,電子の密度を大きくすることができずに,電圧も1.5Vとか9Vと小さいです.電圧が小さいので,電気の力も弱く,小球を動かすことはできません.
 9Vの電池を直列につなぐと,たくさんの電子を集めて密度を大きくすることができ,電圧も72Vと,大きくなります.電圧が大きくなると,電気の力も大きくなり,小球を動かすことができます.
 摩擦電気は,電子の密度がとても大きいので,電圧も数万Vと非常に大きくなります.電圧が大きいので,電気の力も大きく,小球を動かしたり,軽いものを引きつけたりすることができます.

            乾電池   9V電池    9V電池8個直列   摩擦電気
    電 圧     1.5V       9V         72V        3〜4万V
    小球は     ?        ?         動いた        動いた

 小球が本物の電子のように小さくなると,乾電池の1.5Vの電圧で,動くのです.
 豆電球がついているときには,導線の中をたくさんの電子が移動しています.ふつうの豆電球の場合,1秒間におよそ 200 0000 0000 0000 0000個の電子が通過しています.

 形成的テスト    No.2 電圧とは
1 電気をもった金属板の間に発泡スチロールの小球をおいたところ,Aでは速く動き,Bではゆっくり動きました.小球の動き方の違いを説明するために,AとBの金属板の中に,電気の粒を○で書きましょう.

2 図のように2枚の金属板の間に豆電球をつないで,電池1個の場合と電池2個直列の場合を比べると,電池2個直列の方が豆電球が明るく光りました.

 スイッチを切っている状態で,金属板の
電荷密度は,どうなっているでしょう.明るさの違いが説明できるように,電気の粒を○で金属板に書きましょう.

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